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今こそ読みたいグーグルマップ誕生の舞台裏

NEVER LOST AGAIN グーグルマップ誕生 (世界を変えた地図)

NEVER LOST AGAIN グーグルマップ誕生 (世界を変えた地図)

中の人による、キーホール起業からグーグルによる買収、グーグルマップとグーグルアースの成功に向かう物語が書かれた内容は、とても興味深いものでした。個人的なハイライトは、ストリートビューがグーグル内部で始まった当時の描写と、グーグルマップを他社の地図データから自社データへと切り替えることになったGround Truthプロジェクトの章でした。

物理世界を検索可能にするストリートビュー

後にストリートビューとなるプロジェクトを担当していたのは、2004年に入社したLuc Vincent氏。入社した時は、グーグルブックスのチームに所属して世界の書籍をスキャンするタスクを担っていたが、ラリー・ペイジとのミーティングで構想を聞き、スタンフォード大学のMarc Levoy教授と既に始めていたストリートビューをリードする役割を任されたらしい。

最初の検証では、ラリー・ペイジセルゲイ・ブリンマリッサ・メイヤーとドライブしながら助手席でビデオカメラを回して撮った映像!を使ったようだが、Vincent氏はスタンフォード出身のエンジニアとインターン生とともに、撮影車両プロトタイプと360度画像をつなぎ合わせるソフトウェアツールを作り、撮影を行っていた。

何のロゴマークも書かれていない深緑色のシボレーのバンの上にはコンピュータ、カメラ、レーザーセンサーの複合体が取り付けてあり、時速16㎞以下のスピードで走行した。それ以上の速さだと撮影した画像がブレ、使い物にならないのだ。バンから何回か煙が上がったため、電力の安定供給のために今度はホンダのガソリン発電機も屋根に取り付けた。

このプロトタイプでは数々の問題が起こっていたようだが。

この撮影車両の性能は、驚くほど当てにならなかった。毎日、チームがその日の撮影作業を計画し、すべての機器を慎重につないで走行の準備を整える。そうしてインターン生がバンを走らせるのだが、毎日、1時間ほどでコンピュータがクラッシュしたり、他の不具合が起きたりして作業が中断した。少し走ってはマウンテンビューに連絡を入れ、母船に戻って何がうまくいかなかったかを調査するということの繰り返しだった。

それでも、2005年の夏頃には、マウンテンビューとパロアルトの撮影データセットを構築し、グーグルマップと統合したデモを完成させ、正式なプロジェクトに昇格。その後は、2007年にストリートビューアメリカ5都市のみ対応でローンチされ、自動運転のチームも加わった2007年の終わりにはアメリカ中の道路600万マイルのうち100万マイルを走破するまでになった。

Ground Truthプロジェクト

グーグルマップとグーグルアースが大ヒットするのに伴い、地図データのライセンス料の問題が無視できないものになっていた。

グーグルの地図プロダクトの爆発的な人気に伴い、地図データのライセンス料は急騰していた。その中でも最も高額だったのは交通網のデータベースだ。この業界は2社が市場を占領している。オランダに拠点を置くテレ・アトラスとアメリカのナブテックだ。

問題はライセンス料が高いということだけではなく、データをどう使うかまで制限されていたことだという。

彼らは毎年グーグルが支払うデータの利用料金を決定し、またグーグルがどのようにデータを使っていいかを指示していた。ナブテックとテレ・アトラスは、豊富な利益が得られるナビゲーション端末市場に影響がでないようにしたいと考えていた。彼らにとってパーソナルナビゲーション端末を何十億台と販売しているガーミン、トムトム、マゼランとのビジネスの方が重要だった。

当然、とはいえある意味無謀な、自分たちの交通網地図を作る方向に舵を切ることになる。それが、ストリートビューの画像から画像認識技術で交通データを抽出し、全世界の交通網の情報を書き出すプロジェクト「Ground Truth」。

このGround Truthのために内製したのが、地図作成ソフトウェアのアトラスで、2013年のGoogle I/Oスクリーンショットと合わせて紹介されている(下記リンク参照)。アトラスでは、空中写真、衛星写真ストリートビューの画像と、画像認識で自動抽出した道路標識や住所などの道路に付随する情報など、グーグルが持つ特定地域に関する全ての情報を1つの画面で見ることができる。さらに、例えば道路の両側で同じ進行方向の車が撮影されている画像があれば、アトラスがその道路を一方通行であると推測する機能も持っている。ただし、最後は、人間のオペレータがアトラスの解析したデータを確認し、修正して、正確な情報として公開する承認をする。

Google I/O 2013 - Project Ground Truth: Accurate Maps Via Algorithms and Elbow Grease - YouTube

2009年末には、利用料もなく、使用制限もない、グーグル製地図データへの切り替えが行われた。

感想

ユーザを第一に考え、世界の地理情報を整理してアクセス可能にするため、必要なリソースにちゃんと投資し、何十億というユーザが使う現在のグーグルマップを実現してきた裏側は、とても面白かった!

自社製地図データへの切り替えによって、使用用途制限がなくなったことにより、モバイル版グーグルマップで音声道案内が実現されたということを知ると、最近のグーグルマップの地図データ切り替えも、次の新しいユーザ体験の布石かもしれないと思うと、楽しみでなりません。