研究を売れ!―ソニーコンピュータサイエンス研究所のしたたかな技術経営
- 作者: 夏目哲,所眞理雄
- 出版社/メーカー: 丸善プラネット
- 発売日: 2016/01/30
- メディア: 単行本
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ソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)の研究成果を実用化する研究営業組織、テクノロジープロモーションオフィス(TPO)の設立、活動内容とその手法に関する本です。
企業における研究開発の理想
企業に所属する研究者、開発者の立場から見て、研究開発の理想形とは何かと考えると、一つには次のような流れではないだろうか。
- 研究者の思いに基づいて研究が始まる
- トップカンファレンスに採択されるなど、研究が外部で認められる
- 社内の事業部に移管され、製品やサービスに実装される
- 製品やサービスが公開され、広く世の中で使われる
例えば、Jamie Shottonさん達のRandom Forestを使った姿勢推定の研究が、CVPR2010のベストペーパーになって、ゲームデバイスとして発売、2013年のデータですが全世界で2400万台も出荷されたKinect。改めて思うに、こういう研究が出来れば言うことないですね!
現実、そして研究営業を行うTPO
しかし、現実にはこんな風にうまくいく研究開発はなかなかない。書籍によると、研究から具体的な商品に結びついた成功事例は1万件に1件くらいじゃないかということなんで、ほとんどがうまくいかない!というのは実感としてわかるなぁと思うところです。実際、研究を事業にする際には、研究をしている部隊ごと事業部門に移管したり、研究している技術だけを移管したりすることが一般的に行われますが、いずれの場合でも移管をいかに効果的に行うかが課題となっていて、そこで、CSLの研究成果を実用に結びつけるための研究営業をメインに行う組織であるTPOが設立されたそうです。
試行錯誤と教訓
書籍では、実際の研究営業のやり方について、様々な事例を通して語られています。
- 他の企業とのコラボ
- 外部の人に使ってもらう
- 社内の他部門との繋がりを大事にする
- スピンアウトして事業をする会社を立ち上げる
- 出張デモ
- デモを実際に見てくれた人にだけ送るメルマガ
これらを読んでみると、よく言われている技術移管のための取り組みを愚直に実践しているのだなというのがわかりましたし、王道はないというのもその通りだなと思いました。結局、地道に続けていくしかないんですよね。こういった取り組みを繰り返し行なって環境など様々な条件が揃った時、書籍内の言葉で言うと時間と空間を超えて実用化に適したタイミングにハマった時に、CybercodeやPOBoxなどの成功事例が出て来るのだと思います。著者の方が、この研究営業を10年続けて得られた教訓、ぜひ書籍を見て内容を把握してほしいですが、項目だけ引用しておきます。
- 全ては研究を出すタイミングにかかっている
- 必要なコネはなんでも使え
- 組織に対する先入観をもってはいけない
- 顧客に対しては、ほぼ伝らない、という前提で努力すべし
- メンタルを鍛えろ
- 前例のないやり方を試せ
- 一分一秒でも早く動くべし
- 技術を移管した後も追い続けるべし
- 単なる研究営業ではなく、研究プロデュースを目指すべし
- 常に研究所のための営業であることを自覚せよ
さいごに
CSLほどの基礎研究ではないですが、応用研究に近い立場で長く仕事をしている身として、どういう考えで、どのフェーズに貢献すべきかというのは常に思っているところだったので、そのものズバリな書籍で非常に参考になりました。繰り返しになりますが、自分の思いとしては、KinectのJamie Shottonのように研究を立ち上げて、それを論文にして、さらに製品化にも関わって、という最初から最後まで中心で関わるというのが理想ではあるんですけどね。自分一人ではなく、チームでこれを目指せばいいよなと、読み終えた後に感じることが出来たので、これから少しずつ行動していきたいですね。